2014年3月29日土曜日

【読んだ】ママだって、人間 (田房永子)

自分のこと、そんなに格好つけたい訳ではないけど悪くも思われたくないし、心の奥底にある感情をぶつけても理解してもらえないんじゃないか。それなら当たり障りのないやり取りをして、その場をしのげばいいや。なんてことを続けているうちに、いつの間にか当たり障りのない自分が出来ている…なんてことありませんか?私はあります。


「母がしんどい」という田房永子さんが描いた本がありまして、僕はその本を読みながら自分が小さい時の母親との関係、触れ合う回数が少なくなった今では忘れた振り、見て見ぬ振りをしているつもりだったそれを思い出し、心臓をバクバクさせながら読んだものでした。

その田房さんが出した新作が「ママだって、人間」です。


 田房さんが妊娠、出産、育児を通して疑問に思ったこと、納得したこと、衝撃を受けたこと、幸せに思ったことなどなどをコミックエッセイのかたちで綴っています。

よくある出産・育児本、と思ってページをめくった人は、第一章からびっくりするかもしれません。
高校の時の先生が「つわりは辛いけど、これが終われば赤ちゃんに会えると思うと頑張れる!」と言っていたのを思い出す田房さんですが、妊娠初期の彼女はそんなイメージではつわりを乗り切ることは全く出来ません。つわりに苦しむ彼女を何が勇気付けたか、それは「出産したら感度が上がる」という、どこかで読んだ都市伝説でした。

「でも本当だったら 楽しみだな」(8p)


この本では赤ちゃんの可愛さや自由奔放な幼児の姿はほとんど描かれません。
描かれるのは、出産直後に「大変なものを 生んでしまった」(52p)と途方に暮れたり、赤ちゃんと歩いていると判で押したように「育児は大変でしょ!」と何度も何度も言われるうちに「夜眠れずとても大変ですが赤ちゃんがかわいいのでへっちゃらです」(70p)と言った何となくその場が治まるような返答を身につけてしまったり、女の子の赤ちゃんのおまたの洗い方に自信がもてなかったり、夫への不満から1泊のプチ家出をしたり元彼をフェイスブックで検索したりしてしまう、きっと僕たちの周りに沢山いるはずだけれど、それをあまり口には出さなかった人たちの姿です。

妊娠、出産、子育てというそれまでの人生を大きく変えてしまう出来事が起こり、苦しみ、悩み、あがく姿を田房さんはこの本で惜しみなく描いていますが、それについて今まであまり語られることなく、「生んでしまえばなんとかなる」と言った、「世間が認知するお母さん像の枠」(70p)にはまっている言葉ばかりが流通している現状をもたらしたのは、苦しみ、あがいていた自分の姿を知られたくない、それを語っても理解してもらえない、といった思いがあったことも大きな理由なのではないか、と感じました。

僕たち男性も、いい加減に「おっぱいがないから女の人にはかなわない」とか、「お腹の中に10ヶ月もいたから子どもと母親との結びつきは絶対だ」などという、母となった女性を自分が育児に関わらないための都合のいい存在にすることはやめて、妊娠・出産も自分の人生の転機だと受け止めて、そこに四苦八苦していけばいいと思う訳です。

ママだって、人間

この当たり前の事実を痛い程思い出させてくれるこの本は、素晴らしい大問題作として何度も読み返したい作品です。



 

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